
戦略的な地域活性化の取り組み(85)公民連攜による國土強靭化の取り組み【47】住宅団地再生による人口減少、少子高齢化時代のコンパクト&ネットワークモデル
公開日:2025/05/30
高度経済成長期に、都市への人口流入の受け皿として、全國的に都市郊外部で開発がすすめられた住宅団地ですが、50年近くを経た現在では、住民の高齢化や居住世帯數の減少等が顕著に進行しており、地域コミュニティの活力の低下、空き家?空き地の発生等の課題が顕在化しています。加えて、多くの住宅団地は、住宅供給を目的に開発されたため、若者や子育て世帯が働く環境、高齢者支援施設が不足するなど、多様な世代が暮らす場所としては、多くの課題を抱えています。
課題が多い住宅団地ですが、國はインフラが整備されている既存ストック、住宅団地の再生を円滑に実現する目的で、「地域住宅団地再生事業」を令和元年に創設しました。加えて、令和6年施行の法改正では、住宅団地再生をさらに推進し深化させるため、地域再生推進法人による「地域住宅団地再生事業計畫の提案制度」を創設し、「官民共創」により住宅団地再生を進める體制の強化、特例の拡充を図っています。
就業機會の創出やコミュニティのつながりの維持を図り、職住育が近接した多世代共生型のまちづくりを促し、少子高齢化社會に対応した地域環境づくりに向けた取り組みが、各地で生まれています。
ここでは、內閣府地方創生推進事務局が公開している資料から、全國で進められている先進事例から特徴的な取り組みや創意工夫をピックアップして、將來的な団地再生の可能性に觸れてみます。
図:住宅団地再生によるまちの転換イメージ
【出典】內閣府地方創生推進事務局
東小川住宅団地(埼玉県小川町)の事例
町や民間事業者、地域住民で構成される地域再生協議會を結成し、団地再生を推進しています。制限が多かった用途地域を、第一種低層住居専用地域から第一種住居地域へ変更し、廃校となった小中學校にサテライトオフィス、コワーキングスペース、カフェスペース等を整備することで、地域コミュニティ拠點を創設、今後はお試し居住用賃貸住宅、子育て支援施設、高齢者介護事業所等の整備を行い、多様な世代が持続的に住み続けられる地域へとリノベーションが進められています。
鶴川団地(東京都町田市)の事例
住宅ストックの約14%は団地の住宅であり、市民の約10%は団地に住んでいるといわれる町田市ですが(2013年時點)、近年では少子高齢化の進行、建物の老朽化や設備などの陳腐化、居住ニーズに合わない住戸規模、団地內の商業施設の衰退などによる団地センターの活力の低下などにより、団地の魅力が徐々に失われつつあります。そこで町田市は、2013年に「町田市団地再生基本方針」を策定し、産官學及び地域住民が連攜して団地のリノベーションを進めています。特にユニークなのは、社會福祉法人が主體となって、4人乗りゴルフカート型車両2臺が団地と鶴川団地センター名店街の間を運行し、高齢者に対する買い物等の送迎サービスを行うグリーンスローモビリティ事業で、自家用有償旅客運送としては全國初の試みとなっています。
高蔵寺ニュータウン(愛知県春日井市)の事例
多世代が交流する拠點の形成を目指し、舊小學校施設周辺を第一種中高層住居専用地域から第一種住居地域へ用途地域を変更し、同施設を多世代交流拠點施設として、2018年に図書館、児童館、コミュニティカフェ等の複合施設である「高蔵寺まなびと交流センター」を開所、市の指定管理者として高蔵寺まちづくり(株)を設立して、施設の管理?運営を行うとともに、団地再生を推進しています。
緑が丘ネオポリス(兵庫県三木市)の事例
高度成長期に住宅団地を開発した民間事業者が、市とまちづくりに係る包括連攜協定を締結、築46年の戸建住宅を子どもから高齢者まで気軽に立ち寄れるようバリアフリー設計を取り入れたコミュニティ拠點に改修し、日常的な利用に加え、多世代が交流できるイベントを開催するなど、団地內のコミュニティ醸成を推進しています。また、2022年には、団地の一部を第一種中高層住居専用地域から第一種住居地域に用途地域変更するとともに、地域団體や市、民間企業が連攜して自立運営に向けた體制を発足させ、団地內にカフェ、レストラン、お試し居住施設、子育て支援施設、行政サービスステーション、サテライトオフィス、デイサービスセンター、特別養護老人ホーム等の施設整備を計畫しており、高齢者が継続して住み続けられ、かつ若い世代を呼び込む住宅団地へと団地再生の取り組みが進められています。
日の里地區?自由ヶ丘地區(福岡県宗像市)の事例
「まちの成熟に合わせて、まちの使い方も変化する」との考え方の基、地區の一部を第一種低層住居専用地域あるいは第一種中高層住居専用地域から第一種住居地域に用途地域を変更、用途廃止されたURの住棟をリノベーションしてカフェ、コミュニティスペース、DIY工房、認可保育所、クラフトビールのブリュワリーが入居する生活利便施設として開所しています。また、高齢者の移動手段として、AIが予約狀況に応じて運行ルートを考えながら走る乗合バス「AI活用型オンデマンドバス」を運行させるとともに、住宅街の中にある公園に各種サービスを提供できる移動販売車等を出店させ、「サービスが人の近くに移動する地域社會」の実現を目指しています。
地域住宅団地再生事業は、未だ緒についたばかりと言えますが、將來を見據えた土地利用の検討により用途地域や地區計畫を柔軟に変更し、官民共創により住宅団地という貴重な既存ストックを積極的に再活用する取り組みには、地域に新たな価値を提供する試みとして、大いに期待したいところです。